2023/10/21│シンガポール中学生修学旅行への私の考え

 港区議会第三回定例会が今月6日に終了しました。今定例会での最大の案件は、大きく報道もされました、補正予算として提出された「シンガポール中学生修学旅行」の諸経費についてです。
 この問題については多数のご意見を頂戴しました。これに対しての私の意見はなかなか簡単には述べられないので、以下、決算特別委員会にて私が質疑をしたものを一部抜粋等する形で、この問題への私の考えを明らかにしたいと思います。かなりの長文になりますことをご容赦頂きたいと思います。
決算特別委員会
① 港区らしくない提案、突然の発表
(山野井質問)
 区による突然の発表からシンガポールへの中学生の修学旅行について、私なりに色々な方々からご意見をお聞きしますが、賛否両論、本当に賛否両論です。傾向としてはご年配の方は否定的な方が多くて、比較的若い方は賛成が多いような気もします。ひょっとするとご年配の方の方が、海外旅行への贅沢感が強いというのが背景にあるのかもしれません。また賛成の方も老若男女問わず、大賛成という方は少ない一方、反対の方は大反対という方が際立つ印象があります。
 これだけ賛否が分かれるような議案を区がいきなり出してくるというのは、港区らしくない感じがします。プロセスの問題ももちろんあるのですが、それは所管の委員会でも散々指摘されているので、それは置いておきまして、中身についても、これまでの区政運営は良くも悪くも堅実で、例えばですね、ふるさと納税の返礼品について、今回わが会派の清家委員も質問していますが、「ふるさと納税制度の本来の趣旨を踏まえ、国に見直しを求めるとともに、返礼品によらずに区の取り組みを応援していただく、港区版ふるさと納税制度の一層の拡充を図っていく」という特別区民税の減収額が令和4年度7月1日時点で63億6225万7千円となる中でも、愚直なまでに「制度趣旨から外れる返礼品合戦には参入しない」という、これに対する賛否は別として、ある意味、港区らしいスタンスではないかと思うのです。なぜなら、他の自治体の模範とならんとする、港区としての気品とか矜持を感じるからです。
 ですが今回は突然、「国際理解教育進めたいんで中学生の修学旅行はシンガポールにいきます」って、「金あるんだよ、海外行ってもいいだろ、未来ある子どもたちに金使って何が悪いんだよ」みたいな、すみません私の表現の仕方という部分もあるとは思うのですが、他の自治体は「港区さんはお金があるからね」ととても他の自治体の模範にはなれず、むしろやっかみを買うだけでしょうし、成金的というか、荒っぽいというか気品みたいなものが感じられないんです。私たちは先進的な取り組みを港区として取り組んでほしいという話をよくさせていただきますが、それは他の自治体の先駆けになる、つまり他の自治体が後からついてくるような事業でないといけないと思っています。今回の事業ははたしてそうなるのか、私はかなり疑問をもっています。
② 行政の継続性・公平性との兼ね合い
 さて質問に入っていきます。「行政の継続性・公平性」という言葉があります。文字通り、行政は朝令暮改では困るし、公平でないといけないということです。
そこでお伺いします。直近4年間の中学校の修学旅行先をお尋ねします。
(教育指導担当課長答弁)
 中学校の修学旅行先は、多くの中学校において京都・奈良・大阪などの近畿地方を行先としております。令和2年度については新型コロナウイルス感染症の影響で全校が実施できませんでしたが、令和3年度は3月に実施した4校が京都・奈良方面で修学旅行を実施いたしました。その他の学校は、都県境をまたぐ移動制限がある時期での計画であったため、1校のみ都内での宿泊を伴う行事を実施いたしましたが、宿泊はせず日帰りでの首都圏近郊での代替行事実施とした学校もあります。令和4年度以降は、近畿地方に加えて、広島を修学旅行の行先としている学校もあります。
(山野井質問)
 1校のみ都内での宿泊というのは六本木中学校の浅草ですが、コロナがあったとはいえ、修学旅行が浅草からシンガポールって、あまりに飛躍していませんか。京都・奈良・大阪もそうです。継続性がない、不公平感がぬぐえない。
 国際理解は確かに重要です。私自身、高校一年生のときにアメリカにひと月半ほどホームステイをして、それは人生観も変わるし国際理解も進むし、大変貴重な経験で、それを港区の子どもたちにさせてあげたいという思いはあります。でもそれに5億円もお金をかけるなら、もっと優先すべきことがあるんじゃないかと思います。
③ ニーズを見ても優先すべきは学力向上策
 今期、修学旅行に関するわが会派の清家あい委員の質問の中で、「昨年度、教育委員会が実施した学校教育推進計画改定に向けたアンケート調査では進学する中学校を選択するにあたり、公私立を問わず、学力向上策、受験対策、国際理解教育などの充実が判断材料となるということがわかった」と教育長は答弁しています。結果の詳細も見ましたが、まさにこの順番、①学力向上策、②受験対策、③国際理解教育なんです。区立中学への進学率が低く、何とか区立中への進学を促したいという中で、国際理解教育は三番目で、一番は学力向上策、二番は受験対策なんですよね。この二つはかなり近いというか学力をつけるということに集約されるのではないかと思います。二つ合わせたら国際理解教育よりもはるかに高いニーズということになります。背景には、私立は中高一貫校という強みがあって高校受験をしなくてもよい、またこの流れの中で、今私立高校は高校からの受け入れをしなくなってきています。私立高校は希望する都立高校に進学できなかった際の受け皿になっていたのですが、それが少なくなってきて、ますます、子どもの学力といったものへの不安が募っているのではないかと思います。こうしたことに鑑みれば今、優先して区が取り組むべきなのはこれまで区が取り組んできた学習支援(生活保護・就学援助受給家庭対象の)「学びの未来応援施策」の全生徒への拡充とか、それだと民業圧迫になるというのであれば塾代の助成とかではないかと思います。港区の中学校に進学したら学力伸びますよ、きちんと受験対策できますよという体制を整えることではないかと思います。これまで取り組んできた事業との継続性ですとか、現在の区立中学三年生や卒業生、また私立中学に進学した子どもたちとの公平性といった意味でもその方が良いと私は思います。
④ 特定の事業者との関係性
 こうした、色々と疑問が残る今回の事業をなんでこんなに進めていくのか。私は今回の事業の見積もりを取った1社、この会社と何かあるのではないか、あるいは忖度があるのではないかと邪推だといわれるかもしれませんが、そうした思いがぬぐえません。この会社はこれまで区の小中学生海外派遣事業でお世話になっているとともに、またコロナで大打撃を受けた会社です。この会社の利益というものを優先して考えているからなのではないかと疑ってしまいます。こうしたことは絶対にあってはならないわけですが、そこで質問です。令和4年6月から海外での修学旅行を検討し始めていたとのことですが、港区中学生修学旅行事業業務委託の算定根拠となった見積もりをこの1社からしかとらなかったのでしょうか。その理由をお聞かせください。
(教育指導担当課長答弁)
 今回の海外修学旅行の実施に向けては、教育委員会事務局で目的の実現性、移動時間や時差への対応、海外の治安面などの検討を進める中で、これまでの海外派遣事業の実績を踏まえ、1社から見積もりを取得し、計画させていただいたところです。
(山野井質問)
 今の答弁でどれだけの人が納得するか疑問ですが、とにかくこうした特定の会社との癒着などないように、公平に事業者選定を行っていただくべく、今回はプロポーザルということで、総務費でもプロポーザルについてお伺いしました。そのときの契約管財課長の答弁では、「区はプロポーザルガイドラインにおいて、選考委員を5人とし、学識経験者の人数を選考委員の半数以上とすることで、意見が適切に反映されるよう配慮するとともに、選考にあたっては、特定の事業者が有利になることのないよう、評価項目及び評価点を定める」としています。そこでお伺いします。港区中学生修学旅行事業業務委託における評価項目及び評価点についてお聞かせください。
(教育指導担当課長答弁)
 港区中学生海外修学旅行の受託事業者の選定にあたって実施するプロポーザルでは、書類による一次審査と、ヒアリングによる二次審査において事業者を選定する予定です。評価項目、審査基準、配点、審査方法等について定める事業候補者選考基準については、学識経験を有する委員などで構成する事業候補者選考委員会で定めていくことになります。
評価項目については、資格要件、見積価額、企画提案書、業務内容・計画の的確性などの一次審査項目、企画提案書、専門技術力の確認、見積価額と作業量の整合性、取組意欲などの二次審査項目を定めます。また、こうした項目を観点として、各項目5段階での評価を実施し、重点とする項目については傾斜配点するなどの配点をしていく予定です
(山野井質問)
 持ち時間がもうないので続けて質問します。プロポーザル選考への参加事業者が複数社となるよう努力するとともに、1社のみの参加となった場合には選考をやり直していただきたいです。区のお考えをお聞かせください。
(教育指導担当課長答弁)
 現在、旅行事業者1者だけでなく複数者に対して、事業実施に向けた見積もりの打診をしています。見積もりを提出いただいた複数の事業者には、プロポーザルに参加していただき、競争原理の働く中で事業候補者選考委員会の選考委員の公正な評価により、本事業の受託事業者を選考していただく予定でいます。
(山野井)
 当たり前の話ではあるのですが、事業者選定をされる際には、公平に事業者選定を行っていただきたいということを、念押しさせていただきたいと思います。
⑤ 国際理解教育の意義・参加予定の子どもたちの期待
 これまで本事業に否定的な見解ばかり述べてきましたが、私も、先程、同じような年代にアメリカにホームステイをして、大変貴重な体験をしたというお話もしました。国際理解教育を進めるという観点から意義のある事業であるということは理解をしています。私はたまたま海外に行けたけど、そうした機会を親の年収に左右されることなく、すべての子どもに体験してほしいという思いもあります。また何より、区が着々と本事業を進めていく中で、シンガポールに行くことになっている子どもたちの期待、「やった、シンガポールに行けるんだ」と爛々と目を輝かせているであろう子どもたちを思うと、他に優先すべきことがあるといって、議会で反対する、その芽を摘んでしまうということがいいのか、それでいいのかとも思うのです。そうした悩みの中にある、これは私だけじゃないと思います。非常に悩ましい選択を今皆さんは私たちに強いているということはぜひ、ご理解いただきたいと思います。以上で質問を終わります。
⑥ 補正予算賛成&海外修学旅行調査特別委員会の設置
 以上が、決算特別委員会での私と課長とのやり取りです。さてその後の経緯です。今回の海外修学旅行は御田小学校改築費用、コロナワクチン接種や区内共通商品券発行支援、区内商店街消費喚起ポイント還元事業など重要な事業とともに、補正予算で計上されました。そのため、海外修学旅行を止めようとすると他の重要な事業までも滞ってしまいます。また、国際理解教育の意義・参加予定の子どもたちの期待もあります。
 こうしたことを熟慮した結果、苦渋の決断ではありますが、今回は私たちの会派は賛成するという結論に至りました。その代わり、海外修学旅行に関する特別委員会を議会内で立ち上げ、未だ払拭されない数々の問題点をこの特別委員会で精査していくことになりました。
 補正予算案が可決される前、所管する委員会において、海外修学旅行についてこれまで議会に報告することなく進めてきたこと等について、教育長・副区長から謝罪がありました。また、補正予算可決後には私ども会派控室において区長からも謝罪の言葉がありました。
 今回、議会としては十分とはいえないですが、行政のチェック機能として最低限の役割は果たしてきたのではないかと思いますし、またこれからも「海外修学旅行調査特別委員会」において、高すぎるとの指摘の多い費用や、派遣後の効果検証も含め、厳しく精査していくことになります。
 海外修学旅行を含んだ補正予算案に賛成したことにつきましては、多くのご批判もあろうかと思いますが、以上の経緯等もご承知いただきまして、何卒ご理解いただけますれば幸いです。